サラミ論文~論文においしい作り方はない~

大学教員の仕事

今回は「サラミ論文」についてお話ししたいと思います。

サラミ論文とは

非常においしそうな名前の論文ですが、その実はまったくおいしくない論文の一種です。

サラミ論文とは、「本来1つの論文として掲載可能な研究を複数に分散して作成する論文」のことです。

例えば、「おいしいサラミ」に関する論文があったとしましょう。
(以下、空想の研究です。)
その研究では、おいしいサラミとはどのようなサラミなのかを明らかにする、という目的で研究を行いました。
研究方法としては、5歳~50歳までの人を対象に、どのサラミが一番おいしいと感じるかを食べ比べてもらいました。そして、サラミに含まれる脂質を測るための器具「ABURA-α」を使い、それぞれの脂質含有率とおいしいと感じるアンケート結果に関係性があるのかを調べました。

その結果、「脂質の含有量が50gのサラミが一番おいしいと感じる」ことが明らかとなりました。

上記のような論文は「おいしいサラミとはどういうサラミなのか」を明らかにするという目的のもと研究が行われていますので、「脂質の含有量が50gのサラミが一番おいしいと感じる」ということが研究の結果となるかと思います。

しかし、この研究をサラミのように分割し、複数の論文として投稿する方がいるのです。

例えば、
「おいしいサラミに関する検討」
「サラミに含まれる脂質の検討」
「年齢別におけるサラミの好みに関する研究」

といったように、研究内容を複数に分け、1つの研究の中から複数の目的を抽出してしまいます。
そうすると、実験は1回してしていないにもかかわらず、複数本の論文を生み出すことができるわけです。

なぜこのようなことをするのか、ということですが、答えはシンプルで

「研究実績を作るため」

という理由です。

1回の実験で複数本の論文を書くことができるのですから、これほどおいしい方法はありません。
複数人で研究に関わり、それぞ筆頭著者を変えて論文を作成すれば、筆頭著者としての実績を積むことができます。

しかし、当然ながらこの「サラミ論文」は研究者の中ではタブーとされています。
研究の中には少し視点をずらしたものや、対象者をずらして行う研究もありますが、それがいけないというわけではありません。むしろ、研究というものは別の研究から着想を得ることがほとんどですので、ごく自然なことです。

問題なのは「1つの研究を小分けにすること」なのです。

ですので、このサラミ論文を見破るためには「研究対象」を確認する必要があります。
同じ研究対象(年齢、人数、時期など)で複数の研究を行っている場合、それはサラミ論文の可能性が非常に高いです。

ひどい場合だと、全体では100人を対象としているのに、年齢別の研究に小分けにするために、100人のうちの20人だけを対象者として書いている場合もあります。
このような場合は見分けることが難しいかもしれませんが、研究内容はかなり似てきますので、その人の他の論文もチェックするとだいたいサラミだとわかります。

そのため、時々、若くして論文数が膨大な方がいらっしゃることがありますが、よく見てみると、サラミ論文であったり、ただ名前が入っているだけで、筆頭論文が少なかったりすることがあります。

確かに、研究者になるためには論文の質だけではなく、量もある程度必要となってきます。論文数が多いと「おおっ」と圧倒されることもあります。

ただ、このようなことをし始めたら、研究内容に虚偽はなくとも研究者としては終わりだと思っています。

研究の本質は「論文を増やすこと」ではなく、世の中の疑問を解決することです。
共同研究を行うことは非常に良いことなのですが、やはり、本質を見誤ってまで実績を積み上げるべきではないと思います。

何事もそうですが、楽をして得られるものの価値など、たかが知れていると思います。
論文においしい作り方はなく、丁寧に作り上げるからこそ、その価値が高まるのだと思います。

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